人夫出し・人工出しと、建設業許可

建設業者さんからも行政書士さんからも多いのが、「人夫出し・人工出し(にんぷだし・にんくだし)」についての質問です。

人夫出し・人工出しは「建設業」に当たるのか?

建設業の働き方、仕事のスタイルとしては「●●を完成させることでいくら」というのが一般的ですが、中には「作業員を1日現場に行かせることでいくら」という形で営業をされている方がいます。これがいわゆる人夫出し・人工出し(にんぷだし・にんくだし)です。普段は請負をされている方でも、「応援」という形で人夫出し・人工出しをされることもあるようです。

人夫出し・人工出しは、作業員を他社の現場に貸し出し(派遣し)、作業員がその貸し出し先(派遣先)の会社の指揮命令の下に現場作業に従事する働き方です。労働者供給事業は労働者派遣法に基づく労働者派遣に該当するものを除き、職業安定法により全面的に禁止されています。また、建設現場への労働者派遣は原則として労働者派遣法により禁止されています(一部の業務を除く)。要するに、人夫出し・人工出しは、いろんな意味で法的にNGとされています。

厚生労働省『労働者派遣事業を適正に実施するために-許可・更新等手続マニュアル-』より抜粋

なぜこのような人夫出し・人工出しが建設業界に残ってしまっているのか?と思われる方も多いと思いますが、私も明確な答えを持ち合わせていないため、ここでは置いておきます。大事なのは、工事“請負”と人夫出し・人工出し(労働者供給)は別モノであるということです。

人夫出し・人工出しと、建設業許可における“経験”

前述のように、人夫出し・人工出しは工事“請負”ではないので建設業許可は不要なように思えますが、元請さんから建設業許可を求められることが多いようです。そうなると問題になるのが、人夫出し・人工出しの経験は建設業許可における経営業務管理責任者の経営経験や専任技術者の実務経験になるのか?という点です。

結論を言ってしまうと、人夫出し・人工出しは、経営業務管理責任者の経営経験にはならないけれども、人夫出し・人工出し要員として現場作業に従事していた経験は、専任技術者の経験にはなりえます。(※申請される許可行政庁によって見解が微妙に異なることがありますので、必ず許可行政庁にご確認ください。)

経営業務管理責任者において求められているのは「建設業(工事請負)に関しての経営経験」です。これが5年ないし6年必要とされています。しかし、前述のように人夫出し・人工出しは労働者供給とみなされて、建設業法にいうところの「建設業(工事請負)」には該当しません。

一方で、専任技術者においては、実際に現場で作業をしたり、監督したりといったまさに工事現場での実務に携わった経験が求められます。この点、工事現場に出ていたのであれば、人夫(人工)であってもその経験自体が否定されるものではないので、専任技術者の経験にはなりえるという理解です。ただし、現場事務や現場清掃しかやっていないような場合には、当然認められません。

人夫出し・人工出しは絶対に建設業許可を取得できないのか?

このように、一般的には、人夫出し・人工出しの経営経験では経営業務管理責任者の要件を満たすことができず、建設業許可の取得を断念することが多いです。行政書士さんの中には、人夫出し・人工出し=建設業許可の取得はできないと機械的に答えている方もいるようです。

しかし、人夫出し・人工出しでも経営業務管理責任者の経営経験として認められる可能性があるケースもあります。それは、「1人工いくら」という人工単位ではなく、「●㎡いくら」「●トンいくら」のように作業量単位で発注されたり請求したりしている場合です。

前述のとおり、「1人いくら」というのは人(労働力)単位なので、労働者供給と思われても仕方がないでしょう。(※ 覆すことができる可能性については後述します。)しかし、作業量単位で発注があったり請求したりしている場合は、その分量だけの工事を完成させる工事の請負と考えることができます。

上記の図で言えば、5月6日に100㎡の塗装工事を請け負って完成させた、5月7日に50トン分の土の掘削工事を請け負って完成させたと見ることができるわけです。人夫出し・人工出しの場合は8時から17時までというように時間を拘束されますが、工事請負の場合は100㎡塗り終えれば工事は完了、50トン掘削し終われば工事は完了となり、そのプロセス(施工方法)の判断は請負人に委ねられています。

例えば、これらの工事を1人工で8時間かけて終わらせても良いですし、2人工で4時間で終わらせてさっさと帰っても良いわけです。この判断が請負人に委ねられているところが、工事請負と人夫出し・人工出しとの大きな違いと言えます。

※「1人いくら」の場合、人夫出し・人工出しとの判断を覆すのはなかなか難しいでしょう。しかし、絶対に無理かというとそんなことはありません。実際にあったケースとしては、道路の表面を剥がしてその下層の土砂とともに掘削する工事をされているお客様がいました。請求書では機械リース代+人工での請求となっていたので行政からは「人工出しの延長」と最初に言われてしましたが、元請さんからの作業量の指示書類や図面などを用いて工事の業務フローについて説明し、最終的には工事請負と認められたケースもあります。

人夫出し・人工出しをしているときは建設業財務諸表に注意!

人夫出し・人工出しをされている場合、建設業財務諸表を作成する際にも注意が必要です。これまでの説明のとおり、人夫出し・人工出しは「建設業」ではないので「完成工事高」として売上計上するのは誤りで、「兼業事業売上高」とするのが正しいことになります。

これは、経営事項審査(経審)を受ける場合には特に気を付ける必要があります。本来「兼業事業売上高」に計上すべき売上を「完成工事高」に計上しているとなると、それは正しくない建設業財務諸表ということになります。最悪の場合虚偽申請ということになる可能性もありますし、虚偽にならなくても会社が損をしている可能性もあります。

そういったミスやモッタイナイをなくすべく、弊社では2022年から建設業財務諸表の極意セミナーを開催しています。行政が受理してくれた=自分の理解が正しかった、とは限りません。業界や法令への理解は作成する書類に現れてくるので、ぜひとも正しい知識とノウハウを学んでほしいと思っています。

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