行政書士として、建設業法には2つの側面があることを覚えておこう
(目的)第一条 この法律は、建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによつて、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進し、もつて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。(引用元:e-Gov法令検索)
行政書士試験や様々な業務で法律を読んでいる方にとっては、「なるほど~それっぽいことを言っているなぁ」と思われるのではないかと思いますが、まずはこの条文を分解してみましょう。
人が生活をしていく上で欠かすことのできない衣・食・住。安息を得るための家、仕事などの産業活動に必要な拠点、インフラ等の公共施設などが安心かつ安全に建設されることにより、公共の福祉の増進に寄与することを、建設業法は究極的な目的としています。
そして、その究極的な目的を達成するために直接的・具体的な目的として「建設工事の適正な施工の確保」「発注者の保護」「建設業の健全な発達の促進」の3つを掲げています。さらっと読み流してしまいそうですが、ここで気を付けたいのが「発注者の保護」の部分です。
行政書士として日々建設業者さんと接していると、「許可要件が厳しすぎるのではないか?」「技術者制度はもっと融通を利かせてほしいよな~」と思うことがあります。どうしても建設業者さんびいきの考え方になってしまいがちなんですよね。これは建設業者さん思いのアツい行政書士と言うこともできるので、お客さんにとっては良いことかもしれません。
しかし、建設業許可業務を行っていく上では注意が必要です。なぜならそれは建設業法の一側面しか見えていない可能性があるからです。ついつい建設業者さんびいきになりがちですが、建設業法の直接的な目的は、建設業界向けの目的と発注者向けの目的と2つの側面があることを忘れないようにしましょう。
例えば、建設業法においては軽微な工事の500万円、主任技術者等の専任が必要な工事の3500万円、特定建設業許可が必要になる下請金額の4000万円といったように、様々なところで金額的な制約が課されています。そこで問題になるのが、これらの金額を判断する際に「材料を元請業者や施主から支給された場合にその材料代分を含めるのか否か」という問題です。
ここで答えを書いてしまうのは簡単ですが、それぞれの制約がどういう趣旨で設けられているのか、どの目的のための制度なのかといった視点で、皆さんも考えてみてください。
そして、建設業法ではこれらの目的を達成するための手段・方法として、「建設業を営む者の資質の向上」「建設工事の請負契約の適正化等」を掲げています。具体的には各章のタイトルにもなったりしていますが、建設業許可制度、建設工事の請負契約の適正化、下請業者の保護、施工技術の確保、建設業者に対する指導監督などが必要である旨が盛り込まれています。
今こうやって記事を書いていて、「資質の向上」に該当するような条文ってなにかあったかなぁ?と思うのですが、逐条解説の企画を通して条文を読み進めているうちに明らかになるのではないかと、僕自身も楽しみにしています。
建設業法の歴史
ちなみに、昭和24~46年の建設業法、つまり許可制度が創設される前までの目的規定は次のようになっていました。
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昭和24年に建設業法が制定されたときは、戦後の復興の時代でした。建設業者の乱立や経営難・資金難等によって建設業界には不合理な点がたくさん生じていたそうです。そこで、建設工事の適正な施工を確保し、建設業界の健全な発達を目的としたんですね。条文には公共の福祉や発注者保護という文言は見られず、建設業界に向けた法律って感じがします。
現行の目的規定になったのは、昭和46年の改正のときでした。1970年代に入り、高度成長を経て建設産業は日本の主要産業へと成長しました。しかし、その一方で不良不適格業者(施工能力、資力、信用等に問題のある業者)が散見され、粗雑工事や労働災害の発生とともに、公正な競争が阻害されるケースも増加したそうです。そこで、経営の近代化、施工の合理化等を達成してこれらの問題に対処すべく、建設業法の大改正が行われました。
行政書士として、基本に立ち返ることを忘れずに
各種予備校などでも実務セミナーを開催していますが、実務セミナーではなかなかこういった各条文や業法の目的について取り上げることは基本的にありません。
目的規定を読んだから仕事になるわけではないですし、許可申請ができるようになるためにはそれ以外にも学ぶべきことはたくさんあります。しかし、行政書士として基本に立ち返る、法の趣旨・目的に立ち返って考えるという姿勢は大事だと思っています。