行政書士のための逐条解説!建設業法!の3日目は、第2条(定義)についてです。言葉の定義ってめちゃくちゃ大事です。言葉の定義の大切さについては、弊社で開催している「顧客の心をつかむ建設業財務諸表の極意セミナー」でもよく話をするのですが、行政書士は言葉や文章を用いる職業なのに言葉の定義についてあいまいなまま仕事をしている方が結構多い印象です。
行政書士として、定義を侮ることなかれ
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業法の多くは第1条に目的、第2条に言葉の定義を定めていることが多く、建設業法も例外ではありません。第2条は建設業法に登場する7つの言葉について定義づけをしています。それ以外にも理解しておくべきことがたくさんあるのですが、それは各項の解説のところで触れたいと思います。
① そもそも何をもって「工事」と判断するのか?
第二条 この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものをいう。 |
上記のとおり、「建設工事」の種類は同じ建設業法の別表第一に定められています。ご存じのとおり、土木一式工事と建築一式工事の2つの一式工事と、大工工事や左官工事等の27の専門工事の合計29種類に分かれています。昭和46年改正からずっと28種類でしたが、平成26年改正により新たに解体工事が追加されて29種類となったのは記憶に新しいところです。
早速ですが、別表第一を見ていきます。ネットで色々と調べていたら、四国地方整備局のHPに「建設工事の種類」の英語表記が記載されていたので、ここでも取り上げさせていただきました。当たり前ですが、英語表記は法律には記載されていませんので、ご注意ください。
建設工事の種類 | (建設工事の種類の)英語表記 |
土木一式工事 | General Civil Engineering |
建築一式工事 | General Building |
大工工事 | Carpentry |
左官工事 | Plastering |
とび・土工・コンクリート工事 | Scaffolding, Earthwork and Concrete |
石工事 | Masonry |
屋根工事 | Roofing |
電気工事 | Electrical |
管工事 | Plumbing |
タイル・レンガ・ブロック工事 | Tile, Brick and Block |
鋼構造物工事 | Steel Structure |
鉄筋工事 | Reinforcement Steel |
舗装工事 | Paving |
しゅんせつ工事 | Dredging |
板金工事 | Sheet Metal |
ガラス工事 | Glazing |
塗装工事 | Painting |
防水工事 | Waterproofing |
内装仕上工事 | Interior Finishing |
機械器具設置工事 | Machine and Equipment Installation |
熱絶縁工事 | Heat Insulation |
電気通信工事 | Telecommunication |
造園工事 | Landscaping and Gardening |
さく井工事 | Well Drilling |
建具工事 | Fittings |
水道施設工事 | Water and Sewerage Facilities |
消防施設工事 | Fire Protection Facilities |
清掃施設工事 | Sanitation Facilities |
解体工事 | Demolition |
この別表第一を見てみると29種類が一覧表になっているものの、それぞれの工事がどんな工事なのか、その工事内容については触れられていません。どこに書いてあるかというと各行政庁の手引きに…いやいや違いますっ!手引きにも書いてあるかもしれませんが、そこはやはり根拠となる原文にきちんとあたっていただきたくようお願いします。
29種類の建設工事の工事内容については、『建設業法第二条第一項の別表の上欄に掲げる建設工事の内容を定める告示(昭和47年建設省告示第350号)』に規定されています。さらには、『建設業許可事務ガイドライン』の第二条関係及び別表1に各建設工事の例示と区分の考え方が示されているので、「愛読書は『建設業許可事務ガイドライン』です!」と言えるくらい常日頃から目を通しておきたいところです。
さて、この第1項で本当に大事なのは「工事」とはなにか?ということだと個人的には思います。お客様からも「これって工事に当たりますか?」とか「工事か否かの判断ってなんですか?」といった質問を受けることが多いです。みなさんも経験があるのではないでしょうか?工事か否かを判断する上では2つの要素があります。
1つは「土木建築に関する」ものであることです。これは条文のままですが、言い換えると、土地や建物や土木工作物などの不動産に関するものと言うことができます。例えば、お客様の事例で実際にあったのが、豪華客船の客室の内装工事です。クロスや絨毯の貼り換えをおこなっており、やっていることは普通のホテルと同じですが船はあくまでも動産なので、これは建設業法上の「建設工事」には該当しません。
もう1つは私個人の表現ではありますが「加工を加えることで、新しい価値を生んだり価値を回復したりするものか」を1つの判断基準にしています。この工事か否かの判断、特に私の言う“加工を加える”ことについては、行政書士法人名南経営さんの記事『【建設工事の該非判断】建設工事の定義』がとてもわかりやすいので、ぜひ読んでみることをオススメします。一部引用させていただくと、加工とは主に次の4つを言います。
1.新しく作る(新たに取り付ける) 2.作り直す 3.取り除く 4.解体する(引用元:建設業法令情報提供サイト(運営:行政書士法人名南経営)) |
一例として、“トイレをきれいにする作業”を例に挙げてみましょう。トイレをきれいにするためには、①プロの清掃業者に掃除を依頼する、②トイレを新しいものと交換する、の2つの手段が考えられます。
①プロの清掃業者に掃除を頼むことで、“きれいなトイレ”という目的(=価値の回復)を達成することはできます。しかし、掃除はあくまでも掃除であり名南経営さんの掲げる4つには該当しないため、“加工を加える”とは言えません。したがって、「工事」と言うことはできません。
②トイレを新しいものと交換すると、10年前のトイレよりも少量の水で流れたり自動洗浄機能が付いていたりして確実にバリューアップします(=新しい価値の創造)。交換によって古いものを取り除き新しいものを取り付ける作業は“加工を加える”ことになるため、間違いなく「工事」と言うことができます。
行政の発行している手引きには、「保守、点検、樹木の剪定は工事に当たりません」とご丁寧に書いてくれているものが多いと思います。しかし、「なぜ工事当たらないのか?」「工事となにが違うのか?」といった“なぜ?”や“どうして?”という探求心を常に持ちたいものですね。
(2022/8/16追記)
建設業許可事務ガイドラインの“とび・土工・コンクリート工事の例示”にある「重量物のクレーン等による揚重運搬配置工事」が、“加工を加える”という言葉だけでは説明できないのではないか?とのご指摘をいただきました。確かに仰るとおりです!この辺はもっと深く掘り下げて勉強する必要がありそうです。CLA川﨑行政書士事務所の川﨑先生、ご指摘ありがとうございます! |
第2項 契約書がどうなっていても「建設業」は「建設業」です!
2 この法律において「建設業」とは、元請、下請その他いかなる名義をもつてするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業をいう。 |
第1項は「工事とはなにか?」についてのお話でしたが、第2項は「建設業とはなにか?」についてのお話です。この第2項で大事なことは2つあります。
1つは、建設業は“請負”であることです。行政書士試験を勉強してきたみなさんは、“請負”というと民法第632条が頭に浮かぶことと思います。民法では請負について次のように規定されています。
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これを建設業に当てはめて読み替えてみると、「建設業は、当事者の一方が建設工事を完成することを約し、相手方がその建設工事の完成物に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」と読むことができます。つまり、目的物を有形的に完成させることが建設業であり、無形的な役務の提供(保守、清掃等)はこの条文からも建設業ではないと考えられます。
もう1つは、「その他いかなる名義をもってするかを問わず」という部分です。建設工事の完成を請け負う営業であれば、元請でも下請でも外注でもそれ以外のどんな名義・名称を用いたとしても「建設業」に該当するよ、ということです。
例えば、物品の販売契約でも設備の保守契約でも、その納品や保守作業の際に工事を伴うものであればそれは建設業法における「建設業」に該当します。したがって、契約書のタイトルだけ物品売買契約書に変えたとしても、中身が工事であればそれは「建設業」であり、建設業法の規制を受けることになります。
第3項 “建設業者”と“建設業を営む者”は別ものです!
3 この法律において「建設業者」とは、第三条第一項の許可を受けて建設業を営む者をいう。 |
建設業法を読んでいく上で特に気を付けたいのが、各条文の主語です。建設業法は主語がコロコロ変わるのですが、絶対に押さえておきたいのがここに出てくる2つの言葉、「建設業者」と「建設業を営む者」です。
「建設業者」は大臣・知事/一般・特定問わず建設業許可を取得した者を言います。「建設業を営む者」は建設業者に加えて無許可業者も含めた、建設業を営むすべての個人事業・法人です。建設業法ではこの点を明確に区別しています。図にすると次のようになります。
第4項 下請契約は建設業者に限られない。
4 この法律において「下請契約」とは、建設工事を他の者から請け負つた建設業を営む者と他の建設業を営む者との間で当該建設工事の全部又は一部について締結される請負契約をいう。 |
早速出てきました「建設業を営む者」!「建設業者」ではなく、「建設業を営む者」という点をきちんと意識しておきたいところです。つまり、建設業法における「下請契約」は、建設業許可の有無を問わず建設工事を営む者同士での契約のことを言います。
下請契約は「他の者から請け負った」建設業を営む者と他の建設業を営む者との間での契約なので、施主から直接請け負った建設業を営む者(上の図で元請)と一次下請との請負契約はもちろんのこと、一次下請として他の者から請け負った建設業を営む者(上の図で一次下請)と二次下請との請負契約も「下請契約」となります。
第5項 元請負人は建設業者、下請負人は建設業を営む者なのです。
5 この法律において「発注者」とは、建設工事(他の者から請け負つたものを除く。)の注文者をいい、「元請負人」とは、下請契約における注文者で建設業者であるものをいい、「下請負人」とは、下請契約における請負人をいう。
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第二条の最後である第5項には、3つも言葉の定義が詰め込まれています。第5項を図にすると次のようになります。
注文者については定義は明示されてはいませんが、“建設工事を注文する者”という理解でよいと思います。そしてこの注文者は、建設業法では2つに分類されます。1つは「発注者」、もう1つは「元請負人」です。
「発注者」は、建設工事の注文者のうち他の者から請け負った者を除いた者、つまり元請工事の注文者=施主さんのことを言います。一方で、「元請負人」は条文にあるとおり、下請契約における注文者で、かつ建設業者である者のことを言います。
ここで気を付けたいことが3つあります!
1つめは、建設業法における「元請負人」は建設業者に限られている点です。なぜなら、条文の文言を見ると「下請契約における注文者で建設業者であるもの」となっており、「建設業を営む者」を除外した書かれ方をしているからです。この点については第3項のところで前述したので、気づかれた方も多いのではないかと思います。
2つめは、建設業法における「元請負人」は下請契約における注文者のことを言い、下請契約の次数に限らず下請契約の注文者である建設業者は常に「元請負人」であるということです。一般的には「元請負人」というと施主さんから直接請け負った元請の建設会社のことを言いますが、建設業法を読むときは注意が必要です。
3つめは、「元請負人」とは異なり、「下請負人」は建設業許可の有無を問わないという点です。これは元請負人には建設業者という言葉を用いている一方で、下請負人にはその文言を用いていないことから、反対解釈で導かれることと思います。
第4項と第5項をまとめると上の図のようになります。このようにまとめてみると、下請契約の当事者には建設業許可の有無にかかわらずなることができますが、下請契約の「元請負人」は建設業者(=建設業許可業者)に限られているのはとても興味深いです。
建設業法の第三章第二節では「元請負人の義務」として条文を設けていますし、第22条(一括下請負の禁止)にも「元請負人」「下請負人」という言葉が出てくるので、今のうちからしっかりと理解をしておきましょう。
やっぱり難しい「工事」か否かの判断
第2条(定義)の解説、いかがでしたでしょうか?私も書いていて手が止まってしまうことが多く、記事を書くスピードが遅くなってしまいました。一番大変なのはやはり「工事」についての判断の部分です。いまだに判断に困るのが機械設備のオーバーホールについてです。
オーバーホールは「機械製品を部品単位まで分解して清掃・再組み立てを行い、新品時の性能状態に戻す作業(引用元:wikipedia)」であり、一般的にはメンテナンスや管理の一環として行われるものです。しかし、機械の状態によっては部分的に修理・修繕や部品交換を伴うこともあり、前述のとおり加工をして価値を回復させることになるため、一概には言えない難しさがあります。この点は、行政によっても見方が分かれそうな面がありそうですね。
一方で、この記事の中で確実に覚えておきたいのは「建設業者」と「建設業を営む者」との違いについてです。この点がきちんと理解できていなかった方は、ぜひとも覚えて帰ってくださいね!