新人行政書士さんに建設業許可業務をオススメする理由

数えきれないほどある行政書士業務の中で、建設業許可業務は王道と言われています。他士業からの引き合いも多いため、行政書士として歴の浅い方や専門業務を特に決めていない方は、できた方が良い業務の1つと言えるでしょう。

そんな建設業許可業務を行政書士が取り扱うメリット・デメリットをまとめました。行政書士として登録・開業されて、自身が専門特化したい業務を模索しているという方も多いかと思いますので、メイン業務を決める上での一助になれば幸いです。

建設業許可業務をオススメする理由(メリット)

建設業許可業務をオススメする理由、つまり建設業許可のメリットを7つご紹介していきます。

1,事務所経営が安定しやすい

許認可業務はたくさんありますが、風俗営業許可や古物商許可のように許可の有効期限がない許認可もあります。しかし、建設業許可は許可の有効期間が5年間なので、5年に1度許可の更新申請をする必要があります。すなわち、お客様と良好な関係が築けていれば、5年に1度必ず仕事が回ってくることになります。

また、建設業許可業者には毎年決算が終わると決算届(事業年度終了報告届)を許可行政庁に提出することが義務付けられています(建設業法第11条第2項)。たまに提出を忘れてしまっている建設業者さんもいますが、これをきちんと毎年提出することで1年に1度の仕事になるし、なにより毎年お客様と接点を持つことができるのは大きいと思います。

さらには、取締役や株主の変更、商号や所在地の変更などの届出もあるため、建設業許可を取得した後に手続き業務が発生しやすいのも建設業許可業務の特徴と言えます。

2,マーケット・市場規模が大きい

建設業許可業務は、そのマーケットの大きさもオススメする理由の1つです。いつもこの話をするときには宅建業免許と産廃業許可を引き合いに出すのですが、今回はそれ以外の主な許認可の取得業者数についても調べてみました。

  • 建設業許可業者 475,293者(令和4年3月末)
  • 古物商許可業者 395,526者(令和3年3月末)
  • 理美容室店舗 373,346施設(令和3年3月末)
  • 産廃業許可業者 129,657者(令和4年5月16日時点)
  • 宅建業免許業者 127,215者(令和3年3月末)
  • 貨物自動車運送事業者 62,844者(令和3年3月末)
  • 医療法人 56,303社(令和3年3月末)
  • 旅行業者 11,888者(令和3年3月末)

いかがでしょうか?建設業許可業者数が圧倒的に多いことがおわかりいただけるかと思います。ちなみに許認可は関係ありませんが、なじみのある所で言うと、普段皆さんが利用するコンビニの店舗数が約50,000店舗なのでその約10倍も建設業許可業者さんが存在しているのです!ちょっと意外じゃないですか?

しかもここでご紹介したのは既に建設業許可を取得された方の数です。許可は欲しいけど許可要件が整わなくて取得できずにいる方や、今は勤めているけどこれから独立を考えている方なども考えると、建設業許可業務の可能性はまだまだ伸びると言えるのではないでしょうか。

3,建設業者さんにも「行政書士に頼むもの」という認識がある

建設業許可の制度は許認可としての歴史も古く、昭和24年から建設業登録が始まり昭和47年には許可制度に移行して現在に至ります。一方で行政書士法は昭和26年に公布されたので、建設業許可のそばにはいつも行政書士がいたと言っても過言ではありません。(ちょっと言い過ぎですが笑)

また、許可要件が複雑だったり証明が煩雑だったりすること、5年に1度の許可更新や毎年の決算報告があることなどから、「○○さんのところは行政書士に頼んで許可が取れたらしい」とか「面倒な書類のことは行政書士に頼むと良いらしい」とか「うちの協力会社に建設業許可を取らせたい」というのが自然と広まっていきました。その結果、建設業許可のことは行政書士に頼むものという認識が、建設業界に広く浸透しています。

この点、同じ行政書士業務でも、例えば相続業務は司法書士さんも税理士さんも弁護士さんも扱っているので「行政書士に頼むもの」という認識がどうしても希薄です。また許認可系でも医療法人の設立認可は税理士さんが手がけていたりするケースもあるようで、どうしてもライバルの存在がちらついてしまいます。(業際問題はここでは置いておきます)

このように、建設業許可のことは「行政書士に頼むもの」という認識が建設業者さんにあるのは、営業をしていく上でとても大きなアドバンテージになります。さらには、他士業にも「許認可=行政書士」という認識があるので、私も他士業からお問い合わせやご紹介をいただくことが多いです。

建設業許可業務が許認可の中で歴史も古く王道と呼ばれているのも頷けます。

4,手引きや書籍が充実している

建設業許可業務に限りませんが、業務を進めていく上で、手元になんの参考文献もなく手探りで進めていくのはとても不安ですし、大変危険です。例えるなら、地図もコンパスも持たずに登山をするようなものです。そんな状態ではお客様は安心してあなたに依頼することはできないですし、そもそも面談で自信の無さを露呈してしまって受任につながらないことでしょう。

この点、建設業許可業務においては、行政庁の出している手引書や参考書籍が充実しているのでとても心強いです。行政庁によっては手引書を発行していないところもありますが、他県の手引書や書籍を参考にすることで、少なくとも必要書類をスムーズにお伝えすることはできるようになると思います。

しかし他の許認可では、必要書類がまとめられていなかったり手引書に書いていない書類を平気で後から求められたりということが結構あるようです。そういう業務の方がやればやるほどノウハウが蓄積されますし高難度・高単価業務の専門家として唯一無二の存在にはなりやすいとは思いますが、歴の浅い方が扱うのはやはりハードルが高い感は否めません。

まずは手引書などが充実している建設業許可業務で“許認可”に関する基本的な考え方、取り組み方をしっかりと身に付けて、それから他の許認可業務を伸ばしていくのもありだと思います。

最後に、いくつか参考文献をご紹介します。読みやすい順に並べてみましたので、これから業務を始める方は参考にしてみてください。5つめの『逐条解説 建設業法解説』は行政庁の方も必ず読んでいる書籍で、建設業許可業務をメイン業務に据えていく方にとっては必読書だと思います。

  • 建設業法のツボとコツがゼッタイにわかる本(秀和システム/大野裕次郎・寺嶋紫乃著)
  • 建設業法と建設業許可(日本評論社/日本行政書士会連合会著)
  • 建設業の許可の手引き(大成出版社/建設業法研究会著)
  • 建設業許可Q&A(日刊建設通信新聞社/一般社団法人全国建行協著)
  • 逐条解説 建設業法解説(大成出版社/建設業法研究会著)
  • 東京都の建設業許可申請・変更の手引(東京都)

5,派生する行政書士業務が多い

建設業許可業務を扱っていると、派生する行政書士業務の多さに驚かされます。まずは行政書士法人Co-Laboで実際に扱った業務を挙げてみたいと思います。

(許認可系業務)

経営事項審査、入札参加資格申請、建設キャリアアップシステム(CCUS)の登録、解体工事業登録、宅建業免許、産業廃棄物収集運搬業許可、産業廃棄物処理業許可、建築士事務所登録、測量業登録、マンション管理業登録、賃貸住宅管理業登録、電気工事業者登録、警備業認定、古物商許可、指定給水装置工事事業者の指定、指定排水設備工事事業者の指定、屋外広告業登録、電波法に基づく登録点検事業者登録、フロン類充填回収業者登録、浄化槽保守点検業者登録、電気用品製造・輸入事業届出

(それ以外の業務)

会社設立、社団設立、契約書作成、補助金申請
(※登記申請は司法書士にお願いしています。)

上記以外にも入管業務、特殊車両通行許可申請などのお問い合わせもいただきましたが、行政書士法人Co-Laboでは扱っていないため詳しい専門家をご紹介いたしました。

建設業許可をお任せいただいたお客様自身に関する派生業務だけでもこれだけ出てきたので、お客様や他士業からのご紹介も入れるともっとあると思います。それだけ建設業者さんの周辺には様々な許認可が関係してくるということです。そして、これは前述したように“事務所経営が安定しやすい”ことにも繋がっていると思います。

6,他士業との連携が多く、関係を築きやすい

建設業許可業務を扱っていると、税理士さん司法書士さん社会保険労務士さんなどの他士業と連携することが多くあります。

税理士さんには、毎年の決算届の際に資料を出していただいたり、法人設立の届出を税務署に提出してもらったりとご協力をいただきます。経営事項審査を受けている場合にはより深くご協力いただくことも多いです。

司法書士さんには、役員や事業目的などの登記事項に変更が生じたときに連携して仕事を進めていくことが多いです。登記を会社で申請されているお客様もたまにいらっしゃいますが、司法書士さんにお願いした方が完了が早いのでとても助かります。

社会保険労務士さんには、経管専技の社保加入を急いでいただいたり安衛法関係の質問をしたりでなにかとサポートをいただいています。令和2年10月から雇用保険・健康保険・厚生年金の加入が許可要件になったこともあり、これからますます強固な連携が求められると思います。

このように建設業許可業務を進めるにあたり他士業の力を借りることはもちろんのこと、不動産鑑定士さんや土地家屋調査士さん、弁理士さんをお客様にご紹介したこともあります。それだけ他士業との連携が生まれやすく、他士業との関係性構築にもつながる業務と言えるかと思います。

7,先輩後輩のつながりが強い

建設業許可業務に携わって15年以上経ちますが、先輩方が後輩に対して惜しみなく色々な話をしてくださるのもこの業務ならではなのかなと個人的には思っています。おそらく先人たちはみなそうしてくださってきたのでしょう。

昔『ペイフォワード』という映画がありましたが、要するに恩返しをするのではなく恩送りの精神で、後輩に教えてくださる先輩がたくさんいらっしゃいます。

その証拠に、建設業許可業務や建設業法を勉強する趣旨で創られた勉強会がいくつもあります。私の知っているところだと、30年以上の歴史を持つ一般社団法人全国建行協、東京都の建設業法実務研究会、神奈川県の神奈川建行協、千葉県のちば建設実務研究会、沖縄県の沖縄県行政書士建設情報協議会など、全国組織から都道府県単位の任意団体まであり、先輩後輩関係なく熱心に研鑽を積んでいる様子がうかがえます。

建設業許可業務に携わっていると、この業務は先輩方があったから今があるのだなぁと感じることが多々あります。感じたことがない方もいるかもしれませんが、実は見えないところで先輩方が行政と話をしていたりすることもあるのです。

そういった過去の経緯を先輩方から伺ったり、質問に答えていただいて議論をしたりと、建設業許可業務を扱う行政書士に脈々と受け継がれているものを次の世代に引き継いでいくのも我々の役目でだと思っています。

建設業許可業務をオススメしない理由はある?

ここまで新人行政書士さんに建設業許可業務をオススメする7つの理由をご紹介してきました。最後に、オススメしない理由はあるのか?について考えてみたいと思います。

基本的にはないけど、強いて挙げるなら…

オススメしない理由は基本的にありませんが、唯一強いて挙げるなら、“競合が多いこと”に尽きるかと思います。いわゆるレッドオーシャンと言われる業務であることは間違いありません。

これはオススメする理由7の裏返しになりますが、質問できる先輩がいるということは自分よりも詳しいであろう同業者が多数存在することになりますし、歴史の長い許可制度であることからも既に扱っている同業者がみなライバルということになります。

そうなると価格競争に陥りがちで、webでの価格を見ていると本当に大丈夫かなぁ?という価格も散見されます。競争が激しく価格が押さえられることはお客様にとっては良いことかもしれません。しかし、許認可取得はあくまでもスタートです。許可を取得しても取りっぱなしにせず、その後のお客様の成長をサポートしていくことがこの業務の醍醐味だと思います。

先輩が牛耳っているから新人は参入しづらい、はホントか?

知識レベルでは新人さんはベテランに太刀打ちできないかもしれませんが、お客様が必ずしも高い知識レベルを求めているわけではありません。もちろん高いレベルであるに越したことはないのですが、一生懸命やってくれそうという期待感、相談のしやすさ、話をした時の気持ちよさ、フットワークの軽さなど、お客様が行政書士を選ぶ理由は様々です。

したがって、ベテランが牛耳っているから新人が参入しにくいかというと、そんなことはありません。例えば、社長が代替わりで、行政書士も年齢近い人に変えたいというご要望も実際にありました。

最後に

いかがでしたか?最後に、新人行政書士さんに建設業許可業務をオススメする理由をまとめておきます。

1,事務所経営が安定しやすい
2,マーケット・市場規模が大きい
3,建設業者さんにも「行政書士に頼むもの」という認識がある
4,手引きや書籍が充実している
5,派生する行政書士業務が多い
6,他士業との連携が多く、関係を築きやすい
7,先輩後輩のつながりが強い

う~ん、こうやって見ると建設業許可業務をやらない理由がないですね(笑)ライバル増えちゃうから困るのですが、僕が考えているのは「真に建設業者さんに寄り添う行政書士を増やしたい」ということだけです。

建設業許可の申請ができるというのと、建設業法や建設業界に詳しいのとは全く別モノです。単なる許認可等手続代行士ではなく、行政書士として建設業者さんのパートナーを一緒に目指してくれる方が一人でも増えてくれたら良いと思っています。

そして価格競争に巻き込まれないためには、知識のインプットを定期的に行い自分の中で知恵やノウハウに変えていくことが必要です。GATENJUKUのセミナーが質の高いインプットの場になればいいなと願っています。(現在開催しているセミナーについては、下記画像をクリックしてリンク先をご覧ください。)

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